愛について

悪魔の花嫁

‐永遠の三角関係‐

先日、ふと「悪魔の花嫁」(原作:池田悦子、作画:あしべゆうほ)の結末が気になってネットで調べたところ、まだ終わってないんですね。この漫画。悪魔の花嫁は兄と妹で愛し合ってしまったがためにジュピター(ギリシャ神話だとゼウスですがローマ神話だとジュピターなんですね。知らんかった。)の逆鱗に振れ、オリンポスを追放され兄は悪魔にされ、妹はヴィーナスとして絶世の美女であったにも関わらず、黄泉の国で生きながらにして朽ちていくという罰を受けます。

しかしデイモスはヴィーナスから、現世に自分の生まれ変わりがいてその亡骸をもってくれば永遠の魂と美貌を保てると言われ、デイモス=悪魔がヴィーナスの生まれ変わりの美奈子(何故か日本人)を見つけるも、次第に美奈子に惹かれてしまいヴィーナスとの間で板挟みになってしまうというお話。

当時小学生だった私は(年がバレますね)オカルト好きで、デイモスのせいで奇怪な事件に巻き込まれていく美奈子、エロティックでサディスティックだけれども時折情も見せ、二人の女性の間でもがき苦しむデイモスに心惹かれたものでした。

小学生だった頃はデイモスって優柔不断な男だな、くらいにしか思わなかったけれども、大人になって考察するとなんとも深い業と愛憎、そして愛するが故の人間の欲や愚かさについて思い知らされる作品だなとしみじみ思いました。

先ず兄と妹という関係で愛し合ってしまったというのが相当罪深いのだけれども、二人とも罰を受け入れることができず、いかんせんヴィーナスは絶世の美女であったため自らの美貌が失われていくのが耐えがたく、兄にどうにかして自分の生まれ変わりの美奈子の亡骸を手に入れよと命ずるのです。そもそもここが間違いで、終わりのない三角関係の始まりなんですね。

デイモスは美奈子を奇怪な事件に誘いつつも、美奈子の正義感の強さや素直さに徐々に惹かれていきます。一方ヴィーナスは煮え切らないデイモスに痺れを切らし、蝶の化身になってデイモスの前に現れ、どうなってんだまだかとプレッシャーをかけます。もはや鬼嫁です。そりゃ、同じ外見なのであれば嫉妬にかられた鬼嫁より清純な美奈子のほうが心惹かれますよね。

しかしデイモスは自分のせいで醜い姿になってしまったヴィーナスを見捨てることが出来ません。重い責任を負っているのです。かといって、すでに心惹かれている美奈子の命を奪うこともできません。完全に板挟み状態です。

肝心の美奈子はデイモスのことをどう思っていたかは定かではないのですが、恐らく情のようなものはあったのではないかと思います。残酷な事件がまわりでいろいろと巻き起こっても、嫌よ嫌よも好きのうちみたいな感じで美奈子もまんざらではなかったのかも。デイモスも自分の使命を忘れ、とにかく美奈子のまわりをうろつき美奈子がワーキャー言うのを楽しんでいるもはやストーカー状態です。んでもって美奈子が心寄せる人を密かに葬る、嫉妬心バリバリの自己中心的な男になり果てます。

でもどこか、デイモスって憎めないんですよね。ずーっと美奈子のことは見張っててピンチは救ってるし、(相当マメ?)ヴィーナスにたまに逆ギレつつも、なんだかんだ言って宥めているし。そして美奈子とヴィーナスを心から愛している。だから苦しい。デイモスは元々禁断の愛に足を踏み入れた訳だから、誘惑に弱くどうしようもなく優しく、そして業の深い男なのかも。

これって永遠に結論の出ない男女の三角関係であり、いまだ完結していないのも納得。愛ってそれぞれ価値観や解釈が違うし、こうだっていう正解もない。ただ、美奈子は完全に巻き込まれ事故で彼女に非はないのでやはり問題なのはヴィーナスとデイモスの関係性。私がヴィーナスだったらどうするかな。。そしてデイモスにどうしてほしいか。仕方のないことをしてしまったのだから罪は受け入れ、朽ちていく自分を傍でデイモスにずっと寄り添ってほしいかな。なので、デイモスは男気を見せる必要がある。お前がズブズブのグズグズに腐って行っても俺はお前が好きなんじゃーーーーーと言ってほしい。何なら俺も一緒に黄泉の国で腐ると。そしたら本望なんじゃないかと思う。だから自分とそっくりの相手に心惹かれてしまったら、こんな残酷なことってないですよね。それこそ本当の罰かも。でも誰の気持ちも縛ることは出来ない。私を愛せよ、と言っても無理な話ですし。デイモスが美奈子にどうしようもなく惹かれて嫉妬や猜疑心が自分の心を支配し愛が自然なものではなくもはや強制になってしまったら、デイモスと愛し合った日々を思い出に一人で腐って死ぬかな。辛いけど。

でも愛って、与えると同時に奪ったりもするから、人を好きになる気持ちは止められないし、愛してはいけないってこともない。惹かれあうのは自然なことだし。でもそんながんじがらめの恋に落ちてしまうって、デイモスもなんて気の毒なんでしょう。それもまた彼が受けた罰のような気もします。

巻末にあしべゆうほ先生が二人の間で揺れ動くデイモス。あなたならどうしますか?みたいな問いかけが書いてあった記憶があるのだけれど、デイモスは永遠に決められないな、多分。そんなふんぎりつかないデイモスが悪魔なのに情けなく、普通の男と変わらないのがなんだか愛おしく思える今日この頃なのでした。

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